2026.09.15
海外のサイバー脅威レポートを読み解く:セキュリティエンジニア向け活用ガイド
国内のセキュリティニュースや脅威レポートを追うだけでも、サイバーセキュリティの動向や脅威の事例などを把握することはできます。しかし、より実効性の高い防御策を講じ、インシデント発生時の対応力を高めるには、海外の脅威レポートにも目を向けることが大切です。
海外のセキュリティ機関やグローバルベンダーなどが公開する脅威レポートには、世界各地で発生したインシデントの分析結果や、攻撃者が用いる具体的な技術、攻撃傾向を示す定量的なデータなど、実務に活かせる情報が数多く掲載されています。
この記事では、代表的な海外サイバー脅威レポートの特徴と、セキュリティエンジニアの実務に活かすポイントを解説します。
目次
海外の脅威レポートを参照する重要性
サイバー攻撃に国境はありません。海外で新たに確認された攻撃手法や、未修正の脆弱性を悪用する攻撃は、短期間のうちに国内の組織へ波及する可能性があります。
だからこそ、海外発の情報を継続的にチェックし、世界で起きている攻撃の傾向を把握しておくことが重要です。海外のセキュリティレポートを参照する主なメリットは、次の3つです。
一次情報に基づく豊富なデータを把握できる
グローバルに展開するセキュリティベンダーや公的機関が、世界各地から収集した膨大な脅威データやインシデント対応の実績をもとにレポートをリリースしています。
ニュース記事などの二次情報では省略されがちな「どの侵入経路が多く使われているのか」「どの脆弱性が悪用されているのか」といった具体的なデータを確認でき、サイバー脅威の実態を客観的に捉えられます。
攻撃者の最新手口(TTPs)を先行して把握できる
海外の脅威レポートでは、攻撃者が実際に使用した戦術・技術・手順(TTPs)が詳しく分析されています。
新たな攻撃手法やマルウェアなどを国内の被害事例が広がる前に把握できれば、影響を予測し、検知ルールの見直しや脆弱性対策などを先回りして進めることができます。
実務に活かせる具体的な指標を得られる
海外の脅威レポートには、攻撃件数や侵入経路、悪用された脆弱性、被害発生までの期間など、さまざまな定量的データが掲載されています。レポートを見るときは、個々の事件もさることながら、全体の傾向やそれぞれの事象における「数字」に注目しましょう。たとえば、侵入に使われた経路や悪用された脆弱性、攻撃者が侵入してから横展開を始めるまでの時間などです。
レポートにある数字の意味や規模感をつかめるようになると、「何が起こっているのか」「どこに問題があるのか」をスピーディーに把握できるようになります。データに基づいて具体的なセキュリティ施策を打ち出せるようになれば、先回りした対策を実行できます。
セキュリティエンジニアが押さえたい「主要海外レポート5選」
海外のセキュリティレポートには、世界各地で実際に発生したインシデントや攻撃手法、脆弱性の悪用状況など、国内のニュースだけでは得にくい情報が豊富に掲載されています。
ここでは、セキュリティエンジニアが押さえておきたい代表的な海外レポートを5つ紹介します。
Data Breach Investigations Report(Verizon)
米国の大手通信事業者ベライゾンが毎年発行する、データ侵害調査レポートです。世界各地のパートナー機関や同社が収集・分析した大規模なインシデントデータをもとに、実際にどのような攻撃が発生し、どのような経路で侵害に至ったのかを詳しく分析しています。
DBIRの特徴は、個別の攻撃事例を紹介するだけでなく、大量のインシデントデータから全体の傾向を読み取れることです。
たとえば、認証情報の悪用や脆弱性の悪用など、どのような経路が侵害につながっているのかを追えば、現在優先すべきセキュリティ対策が見えてきます。自社の脆弱性管理や認証対策、外部公開資産の管理を見直す際にも、参考になるデータが多く含まれています。
2026年版では、確認済みの侵害の31%が「脆弱性の悪用」を起点としており、これまで主要な侵入経路だった「認証情報の悪用」を初めて上回りました。この数字から読み取れるのは、脆弱性情報を集めるだけでは十分ではないということです。外部公開資産にどのような脆弱性が存在するのかを把握し、悪用される可能性が高いものからパッチ適用を進めるなど、優先順位を付けた対応が求められます。
Verizon Japanは、日本語版のDBIRも公開されています。英語の原文を読むことに慣れていない場合は、まずは日本語版で全体像をつかみ、気になったデータやテーマについて英語の原文を確認するという読み方もおすすめです。
参考
2026 Data Breach Investigations Report (DBIR) | Verizon
2026年度 データ漏洩/侵害調査報告書 (DBIR) | Verizon Japan
ENISA Threat Landscape(ENISA)
EUのサイバーセキュリティ機関であるEuropean Union Agency for Cybersecurity(ENISA)が毎年発行する「ENISA Threat Landscape」は、世界のサイバー脅威動向を俯瞰できる年次のレポートです。
欧州域内の情勢を中心に分析していますが、ランサムウェアや国家・政治的な目的を持つ攻撃、ハクティビストの活動など、世界の組織に共通するテーマも多く取り上げられています。個々のインシデントを追うだけでは見えにくい「今、どのような脅威が広がっているのか」を把握したいときに役立つレポートといえます。
ENISA Threat Landscapeのもう一つの特徴は、サイバー攻撃を技術面だけで捉えていないことです。地政学的な緊張や社会情勢、政治的な動きなどにも目を向け、なぜ特定の攻撃や脅威が増えているのか、その背景まで分析しています。
たとえば、ある地域で政治的な緊張が高まっている場合、政府機関や重要インフラを狙った攻撃、ハクティビストによる活動などが活発になる可能性があります。こうした背景を知っておけば、単に「攻撃が増えた」と受け取るのではなく、「今後、自社の業界や取引先にも影響する可能性があるか」と一歩先まで考えられます。
技術的な脆弱性やマルウェアの情報だけを追っていると、こうした大きな変化は見落としがちです。ENISA Threat Landscapeは、日々のアラート対応とは少し違った視点から、サイバーリスクを捉えるためのレポートとして押さえておきたい情報源です。
参考
ENISA Threat Landscape 2025 | ENISA
Global Threat Report(CrowdStrike)
CrowdStrikeが毎年発行する脅威レポートです。同社の脅威インテリジェンスチームが収集・分析した情報をもとに、金銭目的のサイバー犯罪(eCrime)から国家が関与する攻撃グループまで、世界各地で確認された脅威を幅広く取り上げています。
CrowdStrike Global Threat Reportを読むうえで、特に注目したいのが「ブレイクアウトタイム(Breakout Time)」です。これは、攻撃者が最初に侵入してから、組織内の別のシステムやアカウントへ横展開(ラテラルムーブメント)を始めるまでの時間を示す指標です。
攻撃者が侵入した後、内部で活動を広げるまでにどれほど時間がかかるのかを知ることで、インシデント対応に求められるスピードを具体的に考えられます。
たとえば、自社のSOCでアラートを確認してから端末を隔離するまでに30分かかっているとします。その場合、Breakout Timeのデータと照らし合わせることで、「30分という対応時間で十分なのか」「もっと早く検知・封じ込める必要があるのか」を考えるきっかけになります。
2026年版では、AIを悪用した攻撃やクラウド環境を狙った攻撃、アイデンティティを標的とする攻撃など、企業のIT環境を取り巻く主要な脅威が取り上げられています。
新しい攻撃手法を追うことに加えて、「攻撃者の動きはどの程度速くなっているのか」「自社の検知・対応体制はそのスピードについていけるのか」という視点で読むと、日々のセキュリティ運用を見直すヒントが見つかります。
参考
CrowdStrike 2026 Global Threat Report | Key Cyber Threat Trends
M-Trends(Mandiant/Google Threat Intelligence)
Mandiantが毎年発行する、実際のインシデント対応やフォレンジック調査から得られた知見をまとめた脅威レポートです。現在はGoogle CloudのGoogle Threat Intelligenceの一部として、実際にサイバー攻撃を受けた企業・組織への調査やインシデント対応で得られた情報をもとに、攻撃の実態や最新の傾向を分析しています。
M-Trendsの特徴は、実際の侵害事例をもとに、攻撃者がどのように侵入し、組織内部でどのような活動を行い、どの段階で発見されたのかを具体的に分析していることです。
レポートを読むときは、「どのような攻撃を受けたのか」だけでなく、「攻撃を受けてから、どれくらいの時間で発見できたのか」に注目してみましょう。攻撃者が侵入してから発見されるまでの時間が長いほど、その間に情報を窃取したり、権限を拡大したりする余地が生まれます。
特に確認したいのが、攻撃者の侵入から検知までの時間を示す「滞留時間(Dwell Time)」です。自社のログ監視やEDRを見直す際に、M-Trendsのデータと自社の検知状況を比較すれば、「異常をもっと早く見つけるには何が必要か」を考えるきっかけになります。
2026年版では、初期侵入経路や最新の攻撃手法、攻撃者の活動パターンなどが取り上げられています。個々の攻撃事例を追うだけでなく、「自社ならどの段階で異常を検知できるか」という視点で読むと、インシデント対応体制の改善につなげやすくなります。
参考
M-Trends 2026 Report | Google Cloud
Annual Industry Reports(AboutDFIR)
Annual Industry Reportsは、デジタルフォレンジックやインシデント対応(DFIR)に関する専門情報サイト「AboutDFIR」が公開している年次レポートの集約ページです。
個別の脅威レポートではありませんが、セキュリティベンダーや公的機関などが公開しているさまざまな年次レポートをまとめて確認できるため、海外のセキュリティ情報を探す際の入口として便利です。
Annual Industry Reportsでは、レポートの発行元や対象分野、発行年などを確認しながら、目的に合った情報源を探せます。たとえば、ランサムウェアの動向を調べたいときや、インシデント対応に関する最新の知見を集めたいときなど、テーマを決めて関連するレポートを探すことができます。
また、ひとつのレポートだけを読むのではなく、複数のレポートを比較する際にも便利です。異なる企業や機関の分析を見比べれば、特定のベンダーだけでは見えにくい共通の傾向や、業界全体で変化している脅威を把握しやすくなります。
「海外の脅威情報をもっと調べたいけれど、どこから手を付ければいいか分からない」という場合は、まずAnnual Industry Reportsから気になるレポートを探してみるとよいでしょう。
参考
Annual Industry Reports - AboutDFIR - The Definitive Compendium Project
まとめ - 海外レポートを実務に活かし、分析力・対応力を高める
海外のサイバー脅威レポートは、世界でどのようなサイバー攻撃が起きているのかを知るだけでなく、自社のセキュリティ対策を見直すためにも活用できる情報源です。
脅威レポートを読む際は、紹介されている攻撃手法や数字を、業務環境に当てはめて考えてみましょう。
「この侵入経路は自社にも存在しないか」「この脆弱性を悪用される可能性はないか」「侵入された場合、どの程度の時間で検知・封じ込められるか」など、具体的な問いを持って読むことで、脆弱性管理や監視体制、インシデント対応の見直しにつなげられます。さらに、複数のレポートを継続的に比較することで、攻撃手法や脅威の変化も捉えやすくなります。
ファイブドライブは、社員の約8割をエンジニアが占めるセキュリティベンダーです。情報処理安全確保支援士やCISSPなどの資格を持つ社員も多く、最新の脅威やセキュリティ技術に触れながら、専門性を磨ける環境があります。